レコードを買うということ
貸しレコード屋というものが世に現れたのは、二十歳ぐらいのころだった。
世に現れたといっても、自分が住んでいた田舎には殆どまだ出店されていない。
レコードは買うものという意識のまま、我々は大人になった(たぶん最後の世代)。
自分の意志で、自分の金でレコードを買い始めたころ。
LPが2500円、シングルが500円。
一か月の小遣いが、3000円ぐらい?
レコードを買うのは、大冒険だった。
LPを買うと、その月は殆ど小遣い無しで過ごさねばならぬ。
いくら欲しくても、それはちょっと出来ない相談だった。
買えるのは、お年玉などの臨時収入があったとき。
高校生になってからは、バイトをしたときも加わったが。
いずれにせよ、しょっちゅう買えるものじゃない。
買うときは、大げさでなく命がけだった。
ラジオや雑誌、口コミなどで事前に情報収集し。
当日はレコード屋の棚を一枚一枚、吟味。
選ぶのに、小一時間はかけたなぁ。
そうやって選んだ一枚はその後数ヶ月間、毎日のように聴く。
まさに、宝物だった。
家に帰ってきて袋を開け、取り出したレコードに針を置く。
あの至福の瞬間を、未だありありと思い出せるよ。
塩化ビニールの、独特の匂いと共に。