パンク童子

高校のとき雑誌を読んでいたら、「ロンドンの若者の間で、パンクロックが大流行!」と書いてありました。
ストーンズビートルズももう古い、これからはパンクロックの時代」
パンクロック?

「彼らは皆、髪の毛を逆立てている」
「着ているもののいたるところに、安全ピンを
刺す」
「なかには、顔や耳に刺すヤツも」

何度も何度もくりかえし読みましたが、イメージできません。
写真のない記事だったので、想像をふくらませるしかなかったのです。
他の資料もあたってみようと、本屋にも出かけました。

けれど田舎ですから、パンクロックの情報が載っている本なんて置いてありません。
テレビでもラジオでも、パンクロックに関する情報は一向に流れてこないのです。
ヤスジロー少年の頭の中は、未だ見ぬパンクロックのことでいっぱいでした。

その言葉の響きが、とても重要なことに思えたのです。
時代を、ひいては自分の人生をさえ変えてしまうムーブメントと思えてならなかったのです。
パンクロックになろう!と、心に決めました。

もちろん、音など聞いたこともありませんでした。
パンクロックのレコードなんて、田舎には売っていませんでしたし。
まずはファッションから入ろう、と決めたのです。

次の日曜日、床屋へ行きました。
いきなり「パンクロックにしてください」と言っても、床屋の兄ちゃんにはチンプンカンプンでしょう。
雑誌から得た情報を、とにかく必死で伝えました。

「髪の毛を、逆立てる⁈」
案の定、床屋の兄ちゃんは目を白黒させておりました。
「わざと、寝ぐせみたいに?」

今まで受けたことのない注文に、愛すべき田舎の理髪師は悪戦苦闘してくれました。
小一時間後、恐らくその小さな町で初めてのパンクキッズが誕生しました。
少年は、鏡を見ながら満足感いっぱいでした。

自分は、パンクロックだと思いました。
けれど、今ふり返ってみると。
そん時の髪型は、ただの襟足の長い角刈だったんですけどね。