遺影の表と裏

今まで目撃した中で一番ドラマチックだった事件といえば、もう30年近く前の話だが。
ある知り合いが亡くなって、その葬儀でのこと。
火葬場で荼毘に付される前の、最期のお別れ。

窯の前に祭壇が設けられ、遺影が飾られるじゃんか。
その前で、未亡人が泣き崩れている。
そういうとき、家族とか友人が肩を抱いたりして慰めているという光景をよく見かけるが。

そのときは、誰もそうしなかった。
しなかったというか、できなかった。
そのぐらい、彼女の哀しみは深そうだった。

一方、私は故人と結構深い付き合いがあり。
ゆえに私生活における過去を、知り得る立場にあった。
婚前、実は二股をかけていたのだ。

娶らなかった方の彼女とは、当然結婚を機に別れたわけだが。
だまし討ち的なことはせず、本人曰く誠実に話し合って納得してもらったという。
前述のように付き合いがあったから、私は両人の顔を見知っており。

さて、話を葬儀の日に戻そう。
祭壇の前で泣き崩れる、未亡人。
一方、その裏側には元彼女が!

こちらも泣いてはいたが、未亡人のように声は上げず。
合掌して、嗚咽を押し殺して。
遺影を挟んで、向かい合う二人の女。

嗚呼、人生はドラマ。