ガンド猫、オガンヂメ、デゴ様

幼少のころ、暗くなるまで外で遊んでいたりすると。
大人たちから、脅された。
「ガンド猫(ネゴ)ニ、咥エデガレッチャード」

標準語に訳すと「ガンド猫に咥えられて連れ去られてしまうよ」といったところだが、ガンド猫に相当する標準語が見つからない。
当時まわりの大人に「ガンド猫って、どんな猫?」と訊いたものだが、皆ただ笑うだけでちゃんとは答えてくれなかった。
彼らも、わかってなかったんだろうな。

ガンド猫、……。
辺りが暗くなるとどこからともなく現れ、子供を連れ去って(そして恐らく食して)しまう。
かなり恐ろしい存在として、ヤスジロー少年の脳裏には刻まれた。

同じような言葉に、「オガンヂメ」というのがあった。
髪型や着ているものがだらしない人に対し、「オガンヂメみでぇなかっこして……(オガンヂメみたいな格好して)」と批難する場合に使う。
ではそのオガンヂメが何者なのか、やはり誰も知らなかった。

さらに、さらに。
デゴ様という言葉もあり、これは必要以上に厚着して着膨れている人を揶揄するような場合に使った。
用例「そーたに、デゴ様みでぇに着て……(そんなに、デゴ様のように着て)」

いずれも、今ではほとんど聞かない。
茨城弁といっても、県内全域で使われていたわけでもなさそうである。
なぜ、どういう経緯でごく一部にだけ流通する言葉が生まれたのであろうか。